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私は一瞬、ひるんだ。先日、警察官の不手際が拡散し、警察全体が非難を浴びたばかりなのだ。朝礼でも言動を注意するよう訓示があった。世の中が、警察に厳しい目を向けている中、立て続けに不祥事を配信されるのはあまりに印象が悪い。
交番の住所を送信されれば、私の名前もいずれ知られる。そうなれば弥生も学校で気まずくなる。そんな目にはあわせられない。
しかし……だからといって警察のルールを破ってもよいものだろうか?
「……ダメだ。ルールはルール。お金は、貸せない」
私は、ルールに則り拒否した。
私は……警察官として間違えなかった。脅しに負けなかった。
それでも彼は納得しなかった。お金を貸すよう強要してきた。
「ふざけんなよ! 貸せって言ってるだろ! いいよ、わかったよ! だったら、ほんとにツイートするからな!」
彼は断りなく写真を撮りはじめた。ツイートをすると告げられた。しかし、我慢だ。私は、警察官なのだから。
わたしが男子学生をなだめていると、横から恐る恐る小さな声が聞いてきた。
「ねえ……お巡りさん、まだ?」
私は、はっとした。女の子が涙目でこちらを見ていた。彼女のことを忘れていた。
「すまん、時間がかかりそうだから、こっちの子の話を先に聞くからな」
「はあ? なんでだよ! 俺の方が先だろ! 時間がないんだって!」
「こんな小さな女の子をいつまでも待たせておくわけにはいかないだろ!」
私は女の子の前にしゃがんで、驚かさないようゆっくり声をかけた。
「ごめんね、待たせちゃって。落とし物を拾ったって言ったよね。なにを拾ったのかな」
「うん、あのね。これ!」
やっと女の子が笑顔を見せてくれた。女の子が腰にぶら下げたポシェットから紙を取り出した。私は目をむいた。
それは、一万円札だった。
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