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次の日。
自販機の横に、まだ昨日の少女はいた。
「……あんた、地縛霊?」
「たぶん」
「自分で分からないわけ?」
「分からないよ。幽霊になったことないし」
そりゃそうだ、と、ぼくは笑った。
「なんで、あんたがここにいるのか分からないな」
「それはわたしも同じ。気がついたら、ここにいた」
首をかしげて少女が言い、ゆっくりと立ち上がった。昨日はよく見なかったから気がつかなかったけれど、少女はパジャマ姿だった。その足は透けてて、やっぱり幽霊なんだな、と思った。
「いちおう言っておくけど、ぼくは幽霊が見えるだけで、成仏させたりとかはできないよ」
「あー、そうなの? でもべつにしばらくはこのままでいいかな。幽霊って体験、なかなかできないし」
「変わってるね」
「ほかの幽霊は、わたしみたいじゃないの?」
「うーん、そもそも、いつもはこんなに話したことがないかも」
「ふーん」
「でもあんた地縛霊だろうから、ここから動けないんじゃないの?」
「そうなんだよね。動ける方法とか知らない? 空とか飛んでみたいんだけど」
「知らないなあ」
「そう。残念」
「……とにかくさ、地縛霊は出てくる場所に未練があるらしいから、あんたも多分、ここに未練があるんだよ」
「自販機に? なんかすごくショボくない?」
「たしかに。まあでも、とにかくそれが思い出せれば、成仏できるんじゃないかな」
「だから、まだ成仏したくないんだってば」
「あー、そうだったね」
幽霊とのんきにしゃべってる自分がおかしくなって、ぼくはまた笑った。
「じゃあ、ぼくはもう行くから」
「うん。あ、そうだ。名前おしえてよ」
「坂井。坂井太一」
「そう。わたしは……」
言いかけて、少女は悲しげな表情を浮かべた。
「ヤバイ。思い出せない……」
「……そっか。ほんとになにも覚えてないんだね」
「……そうみたい」
「まあ、時間はいっぱいあるし、思い出せたら教えてよ」
ぼくの言葉に、少女が目を輝かせる。
「あしたも来てくれるの?」
「帰り道だしね。じゃあまた明日」
わかれを告げて、ぼくは歩きだした。
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