理想的断罪

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理想的断罪

煌びやかな装飾が光り輝くダンスホールに、色とりどりのドレスが花々のように広がり舞い会場を彩っている。 令嬢たちがクルリと身を翻すごとに我が王国の名産である宝石が光をあちらこちらに放ち、星が瞬いたように見えた。 まるで夢のような空間だ──思わず、そう独り言ちた。 そんな天上の夢ような会場の扉から、一滴のインクが染み滲むように異様な気配が場を騒めかしていく。 その元凶は、この王国の第三王子であるリヒト殿下と、その側近の子息たちだった。 盛装に身を包んだ殿下の腕には下級貴族の令嬢がいた。 彼女は殿下の青い目に合わせた、それは見事なドレスを身にまとっている。 このパーティーで青色のドレスを着ているのは……着ることを”許された”のは、その下級貴族の令嬢と──第三王子の婚約者である侯爵令嬢のみだ。 婚約者である侯爵令嬢が青いドレスを着る理由を知っている者は、ただの下級貴族の令嬢でしかない彼女が”特別”であるはずの青色のドレスを着ることが許された理由も知っている。 その理由がこれから波乱を巻き起こすのだろう。 察した者から声を落とし、舞台となる会場の中心から退いていく。 いよいよ始まるのだ。 「──ローズ。君との婚約は破棄させてもらう」 静まり返った会場の隅まで通る声だった。 「殿下、ご冗談を。この婚約は王家が決めたもの。破棄はできません」 ローズと呼ばれた高貴な令嬢は落ち着き払っている。口元で精巧な意匠の扇がひらりと余裕を醸し出すように揺れ、白くほっそりとした首元にはドレスに合わせた吸い込まれそうなほど遠目でも美しい空色の宝石がきらりと輝いた。 リヒト殿下に寄り添う令嬢は悲し気な顔でローズを見やる。 「いいや、出来るさ。君にはガッカリしたよ。愛は無くとも信頼していたのに。まさか、王家を……国を裏切るとはね」 「お調べになったのですか」 「あぁ。証拠は揃っている。みっともなく言い逃れをしようなど考えるな」 「言い逃れなど致しませんわ。悪役は潔く散る、そういうものです」 「は、散るとは──神をも裏切るのか! 俺は心底、ローズを見誤っていたようだな! 衛兵! ここに!」 ザワリ 突然始まった王子の婚約を破棄する話に加え、ここ最近囁かれていた侯爵令嬢の黒い噂に対する断罪に静まり返っていた空気が揺れた。 「──ローズ様。リヒト様のことはお任せください。ご安心なさってくださいね」 とても小さく可憐な声だったが、その声は侯爵令嬢へ届いたのか
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