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しばらく黙々と仕事をこなし、今日の分を終えたので帰ろうと思ったら、静蓮もほぼ同時に終わったようで一緒に帰ろうと誘われた。
俺はそれを了承し、二人で寮までの道をおしゃべりしながら歩き始めた。
特別棟から生徒会専用寮までは歩いて10分ほどかかるが、静蓮が育てている花についての話をしていたらあっという間に着いた。
生徒会専用寮は6階建てになっており、ワンフロアに2人が住んでいる。
2階が双子、3階が或人と静蓮、そして4階が会長と俺だ。
1階はロビーや談話室、会議室などがあり、5・6階にはジムやシアタールームなどがある。
寮に入ると、生徒会専用寮のコンシェルジュである柚木園 累さんが笑顔で出迎えてくれた。
累さんは茶髪の優しげなイケメンさんで、コンシェルジュ兼守衛として俺たちが快適に過ごせるように日々頑張ってくれている。
「おかえり珱琉くん、静蓮くん。」
「ただいま帰りました。」
「……ただいま…」
「珱琉くん宛の荷物を部屋の前に置いといたから確認してね。」
「分かりました。ありがとうございます。」
累さんに用があるという静蓮と別れ、エレベーターに乗って4階に行き、部屋の前に行くとそこには大きめのダンボールが置いてあった。
それを抱えて部屋の中に入ると、一気に体の力が抜けてソファーに倒れ込んでしまった。
やっぱり部屋が一番だよな。
俺の安住の地。
愛してるこのふかふかソファー。
しばらくソファーのふかふか具合を堪能したあと、誘惑を何とか断ち切り身を起こして俺宛の荷物の開封に取り掛かった。
ダンボールの中から出てきたのは綺麗にラッピングされた手触りのいい大きめのクマのぬいぐるみだった。
しかもその配色は白銀の毛に薄紫の目。
まんま俺の色。
俺はこの時点で送り主が誰だか分かってしまった。
でも一応確認しようと思い伝票を見ると、そこには俺の予想通り『月嶺 咲夜』と書いてあった。
そう、俺の兄である。
詳しいことは別の機会に紹介しようと思うが、咲夜兄さんはとにかく俺のことが大好きなのだ。
どんなにいらないと言っても、月に一度は必ずプレゼントを送ってくる。
そのバリエーションは服や靴、アクセサリーからゲーム機などの電化製品まで多岐に渡る。
それで今月の貢物はオーダーメイドのクマのぬいぐるみという訳か。
実際これはかなり嬉しい。
ソファーに座ってテレビを見る時とかって手が寂しくなるからクッションを抱いてると以前彼に話したのを覚えていたのだろう。
俺は自分の色を結構気に入っているからこのクマさんに既に愛着が湧いている。
抱き心地もいいし、これから手が寂しくなったらこれを抱っこしていよう。
ふとダンボールをもう一度見てみたら、底にメッセージカードがあった。
そこには、
『珱琉へ
今月はクマのぬいぐるみにした。
世界に一つだけのお前の色彩のぬいぐ
るみだ。
アメジストの目を持つこのクマがお前の心
の平和を守ってくれることを願っている。
お前がこのクマを抱きしめている写真を
送ってくれると嬉しい。
咲夜 』
と書かれていた。
え、このクマの目アメジストなの。
かなり大きいし透き通った綺麗な色してるんだけど。
うわこれ絶対高いやつじゃん……!
気軽に抱きしめられねえよ……!
まあせっかくもらった物だし遠慮なく抱きしめさせてもらおう。
寝落ちしてヨダレつけないように気をつけなきゃ。
そして忘れないうちにクマを抱きしめながら自撮りして兄さんに送らないとな。
あの人こういうの忘れると拗ねちゃうから。
そして俺は自撮りを送るというミッションを達成し、夕飯作りに取りかかった。
───────────────────
【同時刻のとある会社の社長室】
「社長。 何ずっと携帯見てるんですか。 手を動かしてください。」
「うるさい。 少しくらいいいだろう。」
「もう10分くらいずっと携帯眺めてニヤニヤしてるの気付いていないんですか? ハッキリ言って気持ち悪いですよ。」
「珱琉から写真が送られてきたんだ。 今それを網膜に焼き付けようと頑張ってるんだから邪魔しないでくれ。」
「私にも見せてください。」
「嫌だ」
「なんでですか。」
「これは俺がプレゼントしたクマのぬいぐるみと珱琉のツーショットだからだ。 見る権利は俺にしか与えられていない。」
「珱琉くんがパフェ食べてる写真と交換でどうですか。」
「なんだその写真は。 いつ撮ったんだ?」
「知人に頼んで学園内での様子を撮ってもらったんです。」
「よしいいだろう。 送るからな! お前も送れよ! 貰ってからやっぱり送りませんはなしだからな!」
「わかってますよ。 子供ですかあんたは。」
そして2人は手持ちの写真を交換し、一方はニヤニヤしながら、もう一方は顔には出さないが心の中で歓喜しながら自身の珱琉コレクションが増えたことを喜んでいた。
「来月はこれをプレゼントしようと思うんだがどう思う?」
「確かにこれはいろんな機会に使えそうですね。」
「何色にしようか悩んでるんだ。」
「これとこれなんてどうです?」
「お前それは自分とお揃いにしたいだけだろう!」
カリスマ性溢れる超美形の若社長と冷静沈着でクールビューティーなその秘書として世界に注目されている2人の大人の口論はどんどんヒートアップしていく。
2人共今夜は残業確定だろう。
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