夕焼けの売り子

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 幾多の色に輝く星雲が見えた。しかしあまりにも色彩が豊富なので、太陽と月が嫉妬してしまいそうだ。続けて漆黒のブラックホールが姿を現した。これは逆に黒すぎて地上が困ってしまう。次に出てきたのは緑色のカーテンのようなガスの幕だった。これは色彩も程よく、美しい。売り子の少女はこの空を包みこむと、風呂敷の中へ収めた。  しかし風呂敷に入れた途端、ガスの幕が崩れる。なるほど、この空は美しいが不安定でオプションにしか使えないな。と少女は思った。これはのちにオーロラとなった。  最後に少女が行き着いたのは、宇宙の果ての燃える岸辺だった。ここでは役目を終えた命たちが全宇宙から集まり、光にかわっている。  赤から橙に転じ、紫へと変化するその色の、なんと美しいことか。空売りは慎重に風呂敷にその空をいれた。また崩れたりしないよね。恐る恐る風呂敷を開くと、空の形はまったく変わらず原型をとどめている。なんて強い空だろう。  空売りの少女は神様の元へ帰り、この空を献上した。神様は少女に 「これはどこの空か?」 と聞いた。 「宇宙の果ての空です。しかしこの色はどこにでもあります。命が燃えて光に変わるとき、みなこの色を出すのです。それは死であり、生でもあります」 「素晴らしい。まさに始まりと終わりを繰り返す、昼と夜の間に相応しい。でかしたぞ、空売りよ」  神様はこの空をたいそう気に入り、昼と夜の間に取り付けた。それは今日、朝焼けとも夕焼けとも言われている。
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