プロローグ 終わってしまった日常

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 想像するのは、決まってサッカーフィールドだった。足下には躍動するボール。それを上手いことドリブルをしながら、往来の人々を相手に見立ててイメージトレーニング。  あの頃の俺は、そんなはた迷惑なことをしながら駅を全力疾走し、一度も立ち止まることなく大通りに出ると、ストリートライブの音楽がまるで観客の声援のように感じられて、口の端をニヤリと持ち上げて笑っていた。  俺は、そのストリートライブがお気に入りだった。  長身の二人組ギタリストの演奏する曲が、妙に俺の心を踊らせていた。揃ってフードを被っており、その下からわずかに覗く金髪と、身体に提げた黒と白のアコースティックギターが一際目立って注意を惹く。弾む視界の隅でギターの手元をとらえると、流れるようなピック捌きに驚いたものだった。走るのが楽しくなるような、自然と夢を抱きたくなるような、そんな生き生きとした美しくも荒々しい曲調が人気を集めていたらしく、周りには際立ってたくさんの観客が集まっていた。  そして、俺も密かなファンだったのだ。
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