プロローグ 終わってしまった日常

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プロローグ 終わってしまった日常

 夢を見ていた。夢の中で、俺は軽快に走っていた。  それは二年前の俺。中学二年生だった頃の大江空だ。  大きなダッフルバッグを肩に掛けて息を弾ませている俺を、まるで他人の視点から俯瞰するような光景。そんな夢が、頭の中に映し出されている。  けれども間違いなく、俺の記憶だ。  走っているのはよく見知った都心の駅。バスも新幹線も在来線も、地下鉄もタクシーも集まる大きな駅。  普段から人の数は計り知れないのに、時間帯は夜の七時頃だからだろうか、押し寄せる波のように人間の群が溢れ返っている。スーツ姿の人もいれば、遊んだ帰りらしき学生の姿もある。周りにひしめく飲食店は、どれも満席と一目でわかる。  地下鉄から飛び降りた俺は、そんな人混みの中を縫うようにして駆けていく。賑わう地下街から抜け出して、地上に建つおかしな形のモニュメントを横目で一瞥し、人が集る金だか銀だかの飾り時計を通り過ぎる。やがて駅を背にして大通りに出ると、そこで行われているストリートライブを快く思って聴きながら進む。
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