序、 新月の夜

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 どうやら小動物的なのが数匹駆け抜けていったようだ。もっとも一瞬の出来事だったので、黒色だったこと以外に詳しくは分からなかった。  俺はそれらが飛び出してきた方に目を向ける。そこにはただ丈の低い茂みがあるばかりだが、よく目を凝らすと、まだ後ろに小さな気配が感じ取れた。  そっと茂みをかき分ける。  すると、そこにいたのは、兎だった。  周囲の微弱な光でさえよくわかるほどに白い、煌々と真っ白な、一匹の白兎だ。  俺は驚いた。  こんなところに白兎。それも、やや泥にまみれてはいるが、それでもなお美しいと言わざるをえない発色と毛並み。どうやら左の耳が折れているようだが、そのカクンと曲がった耳さえもが、妙な愛嬌を感じさせる。  加えて、今は手傷を負って衰弱しながらも、背後にある大きな荷物を守っているように見えた。青い布地に覆われた風呂敷包みのようなそれは、一見して白兎自身の三倍ほどの体積がある。  まさか運んできたのだろうか。兎って荷物とか運べるのか? それもこんなに大きいのを。  いずれにせよ、なかなかに見慣れぬ異様な光景だ。  これは……捨て猫ならぬ捨て兎か。あるいは家出娘ならぬ家出兎。
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