壹、 天兎 1

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 なるほど。月に住んでいれば月の光を――地表に反射した太陽光を、一番近くで効率的に浴びることができる。例えるならそれは、アスファルトの照り返しのように。 「万物には、大なり小なりこのユエが宿っている。そこらの草木にも石や岩にも、こうした食物にも……もちろん、あんたたち人間にもね」 「俺たちにも?」 「そうよ」  アオはそこで、残したはずの野菜炒めを再度、少量箸で摘んで口へと運んだ。よく見れば綺麗に人参だけを避けるようにして……って、こいつ兎のくせに人参嫌いなのか。 「まあそうは言っても、この地上は、月からは随分遠い。だから基本的に、人間の持つユエは極めて小さい。到底意識なんてできないくらいにね。一方であたしたち兎は、そのユエを重要な生命の根源として大きく発達させたってわけ」  味はいい、と評された俺の野菜炒め。アオは相変わらずそれをちょびちょびと食べていくが、なくなる気配はないので俺も横からつつくことにする。適当に摘むと、アオの避けた人参ばかりが釣れてムッとなった。
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