序、 新月の夜

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 様々な憶測が頭の中にいくつも浮かんだ。けれども最終的に残った一つの判断は、とりあえず保護を、というものだった。  自宅は目前。古くても広さには自信がある年季の入った家だ。弱っているようだから、一晩屋根の下におくだけでも助けにはなるだろう。  方針を決めてから俺が改めてその兎を見つめると、兎は鋭く光る蒼い両眼でもって俺を捉えていた。おそらくさきほど駆け抜けていった小動物たちと一戦交えたあとなのだろう。だとすれば気が立っていても仕方がない。  一人と一匹、向かい合っての硬直の末、しかし兎は、徐々に目を細めていく。瞼が落ちかかっているところを見るに、張り詰めた精神に限界がきているようだ。  俺はそこから、もう少しだけ動きを見せないように注意し、兎の意識が眠りに落ちたと思われるところでそっと胸に抱え上げた。  ついでに後ろの荷物も余った手で拾う――しっかり体積相応に重い。いや、人間であれば苦にならなくても、兎がこれを運ぶのは不可能ではないだろうか。  なんて疑問もあるにはあったが、ひとまず面倒は明日に回すことにする。
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