壹、 天兎 1

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 俺は飲んだことがないが、じじい曰く絶品らしい。入院するまでは好んで飲んでいたし、去年に至っては、わざわざ俺に病院まで運ばせておいて看護師に止められていた。  試しにそいつをお猪口と一緒に持っていくと、アオは一口で気に入った。外見からして飲酒が合法か違法か微妙なところだが、考えてみれば兎に人間の法は関係ない。  アオはそれから瓶の酒をいいだけ――とはいえせいぜい四、五杯ほどだったが――飲んでへべれけ上機嫌だった。ユエとやらを補給する以前に、アルコールに脳をやられてやいないだろうかと疑う俺の横で、アオはお猪口を弄びながら言う。 「何よ紫苑。食事中のメスを無闇に見つめるものじゃないわよ。それともあんたも飲みたいの?」  こちらの視線に気づいている様子がなかったので少し驚く。上気した顔に反して、案外思考はまともなようだ。口調も平時とさほど変わらない。 「安心しろ。この国では、未成年じゃ酒は飲めないよ」 「みせー、ねん? よくわかんないけど……こんな美味しい水が飲めないなんて、可哀想ね」 「水ってお前……酒を知らないのか?」
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