壹、 天兎 1

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 ついでに話の過程でこいつの生活能力を探ってみたが、率直に言って非常に際どい。まず読み書きができない。しかし幸い、会話はほとんど問題ない。シャワー、ドライヤー、冷蔵庫やテレビその他の現代的なあれこれには、はしゃぐ威嚇するの大混乱だが、それでも覚えは早く、立ち居振る舞いや社会的な常識はそれなりにわきまえているようだった。  最後に、部屋を一つアオにあてがった。しかし結局、これは無駄に終わった。 「寝ている間は、月の光を浴びたいの。南向きで窓の大きな部屋がいいわ」  というのが彼女の要望だったのだが、いくつか部屋を吟味した末、条件に合うのが俺の部屋しかなかったのだ。 「仕方ない。諦めてくれ」  と言ったら、片足をタンッと鳴らし 「あんたはあたしを殺す気か!」  と返されて俺は閉口した。天兎にとってユエは生命線。食事による摂取には限界があるらしく、月の光を浴びるのだけはどうしても欠かせないらしい。  そしてどうなったかといえば、彼女は俺の部屋に頑として居座った。主に窓際を陣取り、夜はそこに布団を引くか、兎の姿になって座布団で寝ると言い張った。もう勝手にしてくれ、と内心で思う。
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