天兎 2

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 街の中心からやや北に上った辺りに、俺の通う高校はある。駅からも十分近い立地のため、遠方から電車で通う生徒も少なくない。この時間、校門付近は登校する生徒でいっぱいになる。  ただ、こういう場において俺は、少しだけ敬遠されていた。視線を向けても、あまり関わりたくなさそうに目を逸らす生徒がほとんどだ。今年になって入学した一年生たちからは、かすかに噂話が聞こえることもある。 「あ、あの人じゃない? 二年にいる不良って……」 「宮東紫苑ね。中学の頃から街中でよく喧嘩しててさ。今はおとなしくなったって聞いたけど……俺、一回見たことあるんだよね。駅の裏路地で七、八人相手に全員殴り倒してて」 「え、じゃあ警察常連って話も本当なのかな。うちの中学では、先輩が病院に送られた、みたいな話も聞いたけど」  しかしまあ、この手の陰口にはもう慣れた。俺が入学した一年前から既にあったものだし、だいたいの噂話は聞くたびに尾ひれが増えていた。そして、わざわざ本人がそれを訂正して回ったところで意味はないのだということも、そのうちにだんだんと理解した。
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