天兎 2

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 だいいち、基本的には根も葉もない噂でも、その根本の部分にはやはり真実が混じっている。俺は確かに、世間で言うところの不良だった。学校もろくに行かず、昼夜問わず喧嘩をするくらいには荒れていたのだ。もちろん今はもうそんなことはないし、全ては過去の話になった。それでも、昔の汚名というのは、なかなか拭えないものらしい。  俺は周囲の会話も視線も無視して早足で校門をくぐり、二年の昇降口へと向かった。そうしていつもこの辺りで、前方に固定していた視界を左右に巡らせ始める。変わらず煙たがるように顔を背ける人もいるが、別に気にならない。俺が探しているのは一人だけだ。  靴を履き替え、廊下、階段を経て教室に辿り着く。室内へ入ろうと扉に手を伸ばしかけたところで、それは突然、独りでに開いた。 「これは、申し訳ありません」  偶然にも一人の女生徒と鉢合わせになる。俺は少しだけ驚いた。その女生徒こそが、俺がここまで探していた相手だったからだ。
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