1人が本棚に入れています
本棚に追加
同時に教室の中が一瞬だけ静止した。皆の視線が俺の方へと集まる。普段なら、その視線は俺への警戒。横目でこっそりと向けられて、俺が着席すると徐々に散っていくはずのものなのだが、この場合は少し違った。警戒に加えて少しの好奇、さらに彼女への心配が含まれている。
しかし彼女は、そんなことをまったく気にかけることなく言った。
「おはようございます。宮東さんでしたか」
「あ、ああ……おはよう」
一歩下がって、礼儀正しく朝の挨拶。美しいソプラノの声が耳に心地良い。背は俺よりも頭一つ分ほど低く、黒目がちの大きな瞳が印象的な女の子。その瞳と同じ、真っ黒で艶のあるミディアムヘアが肩上で切り揃えられている。
名を、月見里紅音(やまなしあかね)という。変わった苗字で人目を集め、かつ本人が清楚で可愛らしい容姿をしているためか、男女問わずに人気がある。品行方正でやや硬い話し方に反して親しみやすい性格というギャップが好評らしい。
「ついさきほど数学の先生が教室にいらして、今日までの課題のプリントを、教科担当の生徒が集めておくようにと残していかれました」
「そう、なのか」
最初のコメントを投稿しよう!