天兎 2

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 まあ、その気持ちはよくわかる。彼らが気にしているのは俺と、そして今回においては、月見里紅音だ。彼女が俺に対してあまりにも自然に接する光景は、二年進級に際して生まれたこの新しいクラスにおいて、未だ馴染めない光景らしい。彼女はいったい、どうして俺に関わろうとするのだろう。彼女だって俺の噂は知っているだろうに。きっと誰もがそう思っている。  でも、皆がわからないように、俺にもその理由はわからないのだ。  普通、評判の悪い奴の傍にいれば、自分も悪く思われてしまう。そういった悪い評価というものはとかく伝染しやすい世の中だ。だから誰しも、色々なものを見て見ぬ振りする。  しかし彼女に限ってはこれが反対で、どんな相手にも分け隔てなく接する姿が、さらに評価されるという結果になっている。いつも人に囲まれていながら、そんな他人に流されることなく、しっかりと自分を持っている。それがまた彼女の魅力として、彼女の周りに人を集める。一部ではその溢れんばかりの人望を讃え、聖人だ聖女だと囃し立てる人たちもいるくらいだ。  俺は席に座って頬杖をつきながら彼女の出ていった方を眺め、ただ授業が始まるのを待った。
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