天兎 2

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「私もこれから行くところなのですが、では、覚悟して参ります」  月見里は冗談交じりに目尻を丸め、軽く拳を握りながら俺を見上げて笑う。その柔らかい笑みに誘われ、俺はふと気になったことを口にした。 「食堂に行くのか? 月見里、今日は弁当じゃないんだな」  俺の知る限り、彼女はいつも弁当持参だ。可愛らしい小さなお弁当箱を、教室の机に広げて食べていたはずだが。 「そうなんです。入学してから一度も使ったことがないと言ったら、部活の友人が一緒に行こうと言ってくれまして」  その友人というのが、隣の女生徒なのだろうか。 「一度も? それは珍しいな」 「はい。部では私だけでした。普段は家がお弁当を持たせてくれるので、行く機会がほとんどなくて」  食堂は混雑するからあまり使わないという生徒もいるが、それでも今や、入学して一年以上経った。初めてというのはなかなかレアだ。  しかしまあ、月見里であれば、あながち頷けないこともない。
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