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まずもって彼女は弁当を忘れることなどなさそうだし、仮にそういったことがあったとしても、家から届けなんかが寄越されそうだ。彼女の家は大層な豪邸で、使用人までもがいるという。いったいどこまでが本当かは知らないが、そういう類の話をよく耳にするのだ。彼女の立ち居振る舞いは非常に令嬢然としているから、自然と周りも信じてしまうのだろう。
「宮東さんは、食堂では食べなかったんですね。やはり混んでいるからですか?」
「まあ、そうだな。あと……一人だとちょっと目立つんだ」
主に悪い意味で。自意識過剰では、ないと思う。
しかし俺はすぐ、口にしてしまったことをはぐらかすように、ぎこちなく笑う。
「もし食堂に行くなら、もう少し経ってからの方が空いてるよ。あそこは昼休みになってすぐが、極端に混んでるから」
「そうなんですね。では、少し時間をおいて行ってみます」
対して月見里の笑顔の、なんと自然なことか。
俺はその笑顔を数秒見つめ、すぐに我に返って歩き出した。
「じゃあ、またな」
「はい。よろしければ、今度、食堂ランチをご一緒しましょうね」
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