天兎 2

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 人のいない昼食スペースを求めて屋上に流れ着いた。屋上そのものは割と人気があるスポットだが、夏と冬――つまり暑い時期と寒い時期はめっきり人が来なくなる。そして今の時期は既に暑い。快適なランチタイムをお求めならば、ここはもうお勧めできない場所となる。  それでも、立ち昇った厚い雲の下で給水タンクの影に座り、冷めたあんぱんにクロワッサン、冷たいコーヒー牛乳を飲んでいる分には、まだなんとか我慢が利くくらいだった。  眺めは良い。吸い込まれそうなほどの蒼い空にぽっかりと浮いた白い繊月は、まさに手元のパンの形そのものかもしれない。眼下一面には遠方の山々にまで続く街並み。階下は昼休みの雑談ひしめく教室だが、ここには一切の音がなく、煩い日常から隔絶された別世界にも思えた。 「ちょっと無防備すぎるんじゃない? あんた」 「うおっ!」  そんな静寂の中、突然背後から聞こえた声は俺の心臓を派手に貫いた。 「人間ってのは、こんな簡単に後ろを取られちゃうのねぇ」
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