天兎 2

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 振り向いた先にいたのはアオだ。しかも人ではなく兎姿。その首に見覚えのある青い大きな風呂敷包みを携え、外周に設けられたフェンスの上にちょこんと二足立ち。  いや待て。兎ってのはそんな危険なところに後ろ足だけで立てるような生き物だったろうか。  影の落ちた彼女の蒼い瞳を、俺は見上げる。 「なんでお前がここにいるんだよ」 「あんたが出てったあと、家にいるのも暇だって気づいてね。あんたの匂いを追いかけたのよ」  アオはそう答えながら、自慢げに兎姿の鼻をスンッとやった。 「何を勝手に……俺を見送るのが日課って言ってたじゃないか」 「見送りはしてあげたでしょ」  見送ってすぐあとをつけてくる奴があるものか。子供のお遣いじゃあないんだから。  とはいえ、今更咎めたところで後の祭り。むしろ騒ぎになっていないだけでもマシと言うべきか。何せ普通の高校に兎はいないから、もし見つかっていたらこんなに静かではないはずだ。 「……はぁ、まあいいや。お前こんなところ来て、よく見つからなかったな」 「この姿なら隠れる場所もたくさんあるし、外壁を伝って移動する分には、よっぽど見つかりっこないわ」
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