天兎 3

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天兎 3

 その昔といっても、遡ること所詮は八ヶ月だ。高校一年、十月、秋。文化祭を一ヶ月後に控え、準備やら何やらで校内は、それはそれは色めき立っていた。  けれどもそんな華やいだ空気にまったく興味がなかった俺は、午後からの学級活動――もとい文化祭の準備の時間を無視して抜け出した。もともとこの頃は、普段の授業も出たり出なかったりだったのだ。そんな俺が準備をバックレたからといって、別に誰も困りはしない。むしろ俺がいない方が、周りも楽しくやるだろうとさえ思った。  当たり前だが、たまにしか顔を出さない俺にとって、教室は到底居心地のいい場所ではなかった。ただ、かといって、そこを抜け出せば気分が晴れるというわけでもなく、やり場のない不快感は絶えず腹の中に蓄積して消えることがない。帰宅中の街でショーウィンドウのガラスに映った自分の顔は、誰が見ても気持ちのいいものではなかっただろう。目にした自分さえも、さらにいっそう、険しい表情になったくらいなのだから。
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