天兎 3

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 そして不機嫌や不満はさらなる不幸を招く。これはその典型だったのかもしれない。ガラスの反射を通して妙な連中と目が合った。他校の学生服を着た、俺と同じように昼間から街をうろついている柄のよくない四人の男の集団。既視感があったが、誰かまでは思い出せない。  しかし、そのわずかな間に相手はこちらの視線をキャッチし、一言二言の会話をすると、やおら進路を変えて俺の行く手を阻むように取り囲んできた。  当時は――今でもないとは言わないが――こんなことは珍しくなかった。俺の顔と噂は、この街で喧嘩を呼ぶには十分な理由と言えた。  連中を至近で見て、俺はようやく思い出す。彼らは俺が中学の頃に一度衝突した上級生だ。  この時点で、次の展開は予想できた。お互い睨み合いながら、無言で近場の裏路地へと向かった。相手は四人だが恐れることはない。以前もまったく同じ面子でやりあって、全員殴り伏せてやったのだ。要するにこれは、そのときのお礼参りみたいなものなのだろう。望むところだ。むしろ殴る相手ができて、俺としても喜びたいくらいだった。  ビルとビルの隙間に入って人目がなくなったところで、目の前の相手が振り返る。
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