天兎 3

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 俺は咄嗟に彼女の肩を掴んで後ろに引く。そうやって回避させなければ、間違いなく相手の拳は彼女に当たっていた。  かっと頭に血が上り、目を見張る。 「おい。無関係の奴殴るのは違うだろ」  俺が構えて踏み込もうとしたところで、しかし今度は、月見里が後ろからこの腕を止める。 「待ってください! こちらへ」  相手が怯んでできた空間に向かって、月見里は俺の腕を掴んだまま駆け出していた。そのまま表通りまで走る。あまりにも唐突だった彼女の行動に、その場の誰も反応を示さない。俺が月見里に腕を引かれたまま後ろを振り返ると、連中はただこちらを向いて立っているだけで、追ってくることはなかった。  しばらく走り続けて駅の繁華街を抜けた。そうして街西側の住宅地へと繋がる道の手前で、月見里は止まった。道の壁に手をついて肩を上下させている。彼女の走るスピードは意外にも早くて、俺の方も同じく息は切れていた。 「お前……どういうつもりだよ」  俺が尋ねると、彼女は壁についた手を払い、軽く身なりを整えて答える。 「いえ、文化祭の準備の買い出しに駅まで来ていたのですが、たまたまあなたが囲まれているのを見てしまいまして」
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