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「見てしまいましてって……お前、もしかして俺のこと知らないのか?」
「存じていますよ。宮東さんですよね? 同じクラスの」
あっさり名前を答えられて驚いた。この名前は今や札付きだ。同じ高校に通う生徒なら、やはり知らないわけがない。なのにこいつは、囲まれていた俺を見て追ってきたのか。
「私は、月見里紅音と申します」
「それは……知ってるよ」
逆に彼女の名前は折り紙付き。こちらも同じ高校に通う生徒なら知っていて当然。
「いや、じゃなくて!」
話が単なる自己紹介に流れようとしていたので、即座に軌道修正する。
「俺のこと知ってるなら、噂だって聞いたことあるだろ。なんでこんなことしてんだよ」
「噂とは、さて、どの噂のことでしょう?」
「は? どのって……?」
「夜な夜な喧嘩で相手を病院送りにしているという噂ですか? それとも、堅気らしからぬ人と通じているという噂ですか? あるいは、実は保護観察中だという噂ですか?」
……なんかいっぱいあるんだな。しかもこの三つに関しては全部デマだ。
迷い半分、呆れ半分で俺が黙っていると、彼女はふわりと柔らかく笑った。
「噂は、あくまでも噂ではないですか」
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