天兎 3

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 穏やかな声音で、冗談でもなく、でも大仰でも演技でもなく、それは自然な言葉だった。  まっすぐな言葉を、そのまままっすぐに伝えられる人間は、実はさほど多くない。少なくとも俺にとっては難しいことだった。  けれど月見里にはそれができる。彼女の言葉は信じられる気がした。 「そういうわけで、今日はこうしてお誘いしました。次からは、学校での準備にも参加してみてください。力仕事とかでは、特にいっそう、頼りにされると思います」  彼女はまるで、ここまでが今日のシナリオでしたと言わんばかりに胸の前で両手を合わせた。  気持ちのいい言葉。まっすぐな言葉。正しい言葉。そいつらはどうも白々しいから、俺はあまり好きにはなれなかった。なのに月見里が言うと、不思議と白々しくはなかった。自分でも意外なくらい、すんなりと胸の中に受け入れられた。 「……わかったよ。まあ、どうせこの荷物は学校まで運ぶんだしな。そのついでだ」 「はい、助かります。やはり宮東さんは、皆が誤解しているような人ではないようです。出すぎた真似も、たまにはしてみるものですね」
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