天兎 3

11/14
前へ
/321ページ
次へ
 いや、女一人であんなことをするものではない。これきりにしてほしいものだ。  だが、それでも。  このときの俺は、確かに助けられたのだろう。あの喧嘩からだけではない。傷つけられること、傷つけること、その結果また傷つけられること。そんなささくれた日々の繰り返しから。  だからだろう。このときの俺には、殴る相手ができてちょうどいいなんて気持ちは、もうなかった。むしゃくしゃしていて、何かを殴りたくて、でも殴っても全然晴れなかったであろう不快感が、嘘みたいに晴れていた。  この、たった一人の女の子によって。  彼女にもらった言葉の一つひとつが嬉しかったこと。俺はそれを、日を重ねるごとに何度も何度も思い出し、いつしか必然的に、彼女への好意を自覚した。  俺は月見里が、好きなのだ。  そしてそれは、今でも変わらずこの胸にある。
/321ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加