貳、 ユエ 1

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 こうして駅の百貨店を歩く今でも、すれ違う人々は高確率でアオを振り返り、足を止める。これでは落ち着いて買い物もできない。もし何かのはずみでアオの頭からひょっこり長い耳が飛び出しでもしたら、いったいどんな騒ぎになるのだろう。そう考えると気が気じゃない。  しかしアオは、そんな俺の半歩後ろを歩きながら、平気な顔で囁いた。 「大丈夫よ。この視線の理由は、言ってしまえばあたしが浮いてるから。仮にあたしが今ここで自慢の耳を立てたとしても……なんだっけあれ、こすぷれ? とかいうのに思われるのが関の山でしょ。だったらむしろ堂々としてればいいのよ」  ……また変な言葉を覚えたな。  しかし、それを聞いて俺はもう一度、周囲の人の表情を見る。ただ漠然とではなく、一人ひとりを順番に。すると確かに、アオの言葉ももっともだと思えた。向けられた視線のほとんどは「物珍しさ」へのそれだ。 「ま、もちろんこの注目は、あたしの容姿があってこそだけどね。いつの世も美しきは罪よね」  自慢げに言われると癪だがその通りではある。
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