貳、 ユエ 1

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 その後もアオは、まるで周囲に紛れるということをせず、買い物を続ける俺の横で「あれは何? これは何?」と忙しなく動いた。あまつさえ、目立つがゆえに声をかけてきたコスメショップの店員に連れていかれ、見事に足を縫い付けられてしまう。結局、声をかけてもうんともすんとも言わずに店員の話ばかりを聞いているので、痺れを切らした俺は勝手に当初の用事である見舞いの買い物を済ませにいった。  洗面用具、ティッシュ、飲料水などの日用品に加え、じじいの気に入っているメーカーのカステラも忘れず買う。そもそもこれが、わざわざ駅の百貨店まで足を伸ばした理由なのだ。  そうして三十分ほど経っただろうか。アオを拾いにコスメショップに戻ったら、あろうことかすっかりたらし込まれていて「ねいるするからこれ買って」と小瓶を二、三押し付けられた。 「ネイルの発音が平仮名の口で何言ってんだ」 「いいじゃない。これであたしの機嫌が買えるなら安いもんでしょ」  なんという買わせ文句かと思ったが、しかし、それも一理あるのでは、などと考えてしまったあたり、俺も相当キているなと感じた。
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