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店から外に出ると、知らないうちに一雨降ったらしく地面は濡れていた。山とビルでできた空の境界には赤い残照が見え、張り詰めた弓のような半月が雲間から薄く輝いている。道々に佇む街灯には既に光が灯り、仄暗い中でも街は煌々と活気付いていた。
しかし繁華街を離れれば自然と明かりも乏しくなり、徐々に夜の帳が下りてくる。
視覚が頼りなくなれば、その他の感覚が鋭くなるのが人間というものだ。そしてそれは、兎であるアオも同じらしい。ふと隣を歩く彼女を見ると、頭の上に白い耳がピョコっと飛び出て、頻りに周囲の音を探っていた。
「おい。お前、耳」
「しっ! 静かにして!」
俺が注意をしようとした途端にアオは身構える。瞬間、その蒼い瞳を鋭く光らせたかと思うと、俺の身体を抱えて後ろへ飛んだ。
直後、聞き慣れない音とともに、立っていた地面に二つずつ、計四発の弾痕が生まれる。
「なっ!」
突然穿たれたコンクリートの破片が、驚くほどに高く宙へと跳ねた。その光景を、俺の脳はまるでコマ送りのようにゆっくりと追った。
これは、銃弾!?
「左上ね」
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