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着地と同時、アオは俺を庇うように前へ立ち、顔を上げる。暗闇の中のその表情には白い八重歯が光り、不敵な笑みを映し出していた。
アオの視線の先を追う。彼女の言葉通り、左の住宅の屋根に二つの影が見える。そのうち一つが身軽な跳躍で、俺たちの二十メートル前方に着地した。
フードを被った黒い影。そのフードの隙間から、鋭利に尖った長耳と紅い双眸が覗いている。直感でわかった。これは単なる喧嘩の待ち伏せではない。そうした輩とは一線を画す者だ。
目の前のそいつは音もなく片足を上げると、すぐに勢いよく打ち下ろした。靴底がアスファルトを面でとらえたタンッという高音が、しんとした夜の住宅街に、波紋のように響き渡る。
するとそいつの後方から一つ、さらに右のマンションのベランダから一つ影が増え、左後方の路地からも気配が一つ現れる。計、五つ。囲まれたという表現がしっくりくる陣形だ。
そう感じた瞬間、アオが、俺の手を取って駆けた。進路は右後方――包囲網のもっとも薄い方角だ。彼女の素早い初速に肩を抜かれるような感覚を覚えながら、俺も続いて走り出す。
「おい、アオ! どこに行く!?」
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