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Sweet
あたしが履歴書を持って再びそこへ行ったのは、三日後の学校帰り。その日も栗原さんは、あの日と同じく働いていた。
「まさか本当に応募してくるとはね」
栗原さんはやっぱり豪快に笑った後、そんなに俺に会いたかったんだ、なんてグラスを拭きながら軽口をたたいた。
「ここが丁度帰り道だし、丁度バイト探してたし、いろいろ考えて一番丁度良かったからここで働きたいんです! 栗原さんのことなんてほんっとうに全っ然関係なくあたしはここがいいと思ったんです!」
むきになって反論し終えてから、あたしはなんて不器用でわかりやすい人間なんだと恥ずかしさに顔が熱くなった。
ここが帰り道なのもバイトを探していたのも本当。だけど、栗原さんの存在が無関係だというのは嘘。どうせ栗原さんには、あたしの言葉に隠された嘘なんてお見通しなのだろう。
罰が悪くて俯くと、ふうんという含みのある声が頭上に飛んだ。
「俺の名前はちゃっかりチェック済みってわけね」
顔から火が出そうって、きっとこういうことを言うんだと思う。
栗原さんに呼ばれて出てきたマスターは、事前連絡もすっかり忘れて突然やってきたあたしでも温かく迎え入れ、そのまま面接をしようと奥に通してくれた。
一応対面に座ったものの、履歴書にさっと目を通したマスターが発した一言目は、いつから働ける? だった。あまりにもあっけなく採用が決まり、思わず本当にあたしを雇って大丈夫ですかとあたしの方が聞き返してしまったほど。
そんなあたしに、ここで働くのは嫌なの? とマスターはおかしそうに笑った。
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