Bitter

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Bitter

 今更ながら思い返してみれば、この結果に繋がるしかない伏線だらけだった。  多分どこかで気づいていた。だけど見て見ぬふりをしてきた。なんだかんだあいつはあたしのことが大好きだろうし、まさかねって、毎日自分に言い聞かせてきた。  人生初の恋人を失う日は、こんなにも突然、こんなにもあっけなくやってくるものだなんて知らなかった。  泣くな。こんなところで泣くんじゃない。  スマートフォンを握りしめる手に力を込める。足りなくて唇を噛みしめても、まだ小刻みな震えが止まらない。瞬きさえも我慢したのに、努力は虚しく涙が頬を伝う。  悔しい。悔しい。悲しい。わけがわからない。なんなんだ、もう。  涙を堪えられないならばせめてばれないようにしなければと、スマートフォンをテーブルに置き、手のひらで目を覆う。余計な音は立てないようにと鼻もすすらず、細心の注意を払いながらゆっくりと細く長く息を吐く。良い感じだ。そう思ったら、ほんの少し気が緩んだ。  ひっく。  不意に漏れてしまった自分の声にドキリとして、口元を押さえながら店内を見回して気づく。いつのまにかお客はあたしだけになっていた。さっきまでいた女子グループも、スーツのおじさんも、もういない。店員さんさえも、奥に行っているのか姿がない。  丁度良かった。だってこんなにも素敵なカフェで、こんなにも惨めな姿、誰にも見られたくない。
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