昼と夜の間

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 日下部奏太が亡くなったのは夏休み最後の週のなので、ほんの数ヶ月前のことである。  友人宅に泊まりにいっていた彼は、コンビニへ買い出しに向かっている途中で交通事故にあったのだ。  交友関係が広かった彼の死にショックを受けた者は多かった。  かくいう俺も奏太とは同じ事クラスになったことも、一緒に遊んだことも何度かあったので、すぐに彼の死を受け入れることはできなかった。というより、彼が死んだ実感がまったく湧かなかったのだ。  葬儀の時に彼の母親が泣き崩れているのを見て、やっとあいつは本当に死んだんだと思えた。  参列者が遠巻きにしている中、日下部さんはしゃがみ込んだ母親を慰めていた。  嗚咽(おえつ)を漏らす母親の背を撫でている彼女は、何だか大人びていて学校での印象とは異なっていた。  俺のイメージの日下部さんは、美術室で黙々と絵を描いている。社交的だった奏太とは正反対で、彼女の周りはいつも静かだった。  同じ部活だったけれど、人の輪に混じらない彼女と会話をしたのは数えられるほどしかない。  そのどれもが「先生が呼んでた」とか「最後の人は戸締りして帰って」とかいう事務的なものである。  日下部さんはいつも人を遠ざける空気をまとっていて、強いて彼女に話しかけようとする者はいなかった。  けれど、葬儀の時の彼女は母親に優しい言葉をかけ、参列者に礼儀正しく応対していた。  自分だって、いっぱいいっぱいだろうに。  それから、俺の日下部さんへの印象は少し変わった。
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