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ある日の夜。
無性に炭酸飲料が飲みたくなってしまった俺は、真夜中に冷蔵庫を漁った。
しかし、生憎目当ての物は切らしていたので、仕方なく自販機まで買いに行くことにする。
最寄りの自販機はちょっと遠い。住宅地を抜けて、商店街まで行かなくてはならない。
無事、目的の物を買った俺は、いそいそと家路を急ぐ。
あくびを噛み殺して歩いていると、通りかかった公園にふと目が止まった。
昼間には子供たちや井戸端会議をする主婦で賑やかな公園も、深夜となると人気はない。遊具らしい遊具もなく、隅の方に砂場だか花壇だか判然としない囲いが所在なさげに設置してある。
植えられている木も冬とあってどれも葉はなく、いかにも寒々しい。
その枯れ木の前に人が佇んでいる。
公園にぽつんと1本だけある電灯に照らされた人物は、黒っぽいジャケットを着ている。目深に帽子を被っているので顔は分からなかったが、服装からして男だろう。
その男は何をするでもなく、ただ木を眺めている。
こんな時間に何をしているのだろう、と首を傾げていると視線を感じたのか男が振り返った。
あっと驚いた俺は、思わず持っていたペットボトルを落としてしまう。すぐに拾おうとしたが、慌てていたため蹴ってしまった。
地面を転がったペットボトルは、件の人物の足元で止まる。
こつんと爪先にぶつかった物を拾い上げると、表面についた砂を払った。
「やあ! これ君のかい?」
明るい声に、俺はさらに驚く。
俺は電灯があるので顔が見えたが、相手からはこちらが見えていないようだった。
「炭酸を落としてしまうなんて、災難だね。飲む時に気をつけるんだよ!」
からりと笑ってペットボトルを差し出してきたので、戸惑いつつも受け取る。
「こんな時間に出歩いてちゃ危ないよ」
それだけ言うと公園から出て行ってしまい、後ろ姿が遠ざかって消えるまで俺は立ち尽くしていた。
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