乳白色の残像

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 ユウの寝床を作るため、部屋に予備の布団を敷いてリビングに戻ってみると、ユウはすっかり寝入っていた。  仕方がないのでユウを抱き上げ、自分の部屋へと運ぶ。ユウは寝ぼけているのか、俺にぎゅうとしがみつき「ママ」と呟いた。  パパの次はママかよ。  心の中で悪態をつくが、なんとなく和む気がするのはなんなのか。  物心ついた頃から、感情の起伏の乏しい子どもだと言われてきた。自分ではそんなつもりは全くないのだが、周りから見るとそうだったらしい。  他のヤツらが笑ったり泣いたりと忙しい時にも、俺はさほどでもなかった。心動かされるようなことがなかった。悩みも特にない。  両親は健在で、仲もそこそこに良好、中流家庭でお金にもそれほど困っていない。この身も健康そのもので、大きな病気などしたことがなかったし、成績も常によかった。運動神経だって悪くない。友だち付き合いにも問題はなく、あらゆるものにおいて過不足がない、それが俺だ。  だけど、日常に熱がない。夢中になれるものがない。どれもそこそこにできてしまうものだから、すぐに飽きてしまう。  皆が泣いてしまうような感動的な映画を観ても涙一つ零れないし、心もさほど動かない。誰かがいる時は何となく相手の雰囲気に合わせるが、本音じゃない。  俺はどこかに熱を落としてしまったらしい。  何をやっても楽しくない。夢中になれる何かを探しているのに見つからない。そんな自分はどこかに欠陥があるのかもしれない。そう思いながら、俺は俺のまま二十年を生きてきた。  俺は布団に寝かせたユウの寝顔を見つめる。  俺の人生で初めて起こったとんでもない出来事、それがこの拾い物だ。 「まさか、子どもを拾うことになろうとは」  頭をグシャグシャと掻きむしる。  トラブルというものに全く免疫のない俺には、ちょっと酷じゃないだろうか。 「……寝よう」  とにかく明日だ。俺は軽くシャワーを浴び、ベッドに潜り込んだ。
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