【1】送る

5/10
24人が本棚に入れています
本棚に追加
/131ページ
 駅のルートは決まっていて、そこには茶色い道ができています。  だから草原の花を踏み潰す事もありません。自然は貴重な宝物。仕事だからと言って壊せません。   「ぬこっ」  あ、文字盤が動きました。地区をまた一つ過ぎたようです。現在の位置は1−28。静かな草原はここまでです。 「外、見てくるね」  移動中も気は抜けません。運行ルートに危険がないか、天気の変化はないか。安全に駅を動かすために、駅員には仕事が沢山あるのです。  そして何より大切なのは、落し物の捜索。うえのひとが落としたものを拾って空に返す。これが私たちの、最も大切なお仕事です。 「ん〜……」 辺りに広がるのは緑ばかり。鮮やかな花は綺麗ですが、これはもう毎日見た景色。決して悪くありませんが、たまには新しいものに会いたいです。例えば「いきもの」とか…… 「ぬこっ⁉︎ 」 けたたましい音が鳴りました。ランプが赤く点滅します。看板の文字は9→1。九駅からの緊急連絡です。 「こちら九駅。至急応答願う」 低くて渋い声。九駅の駅員さんは、白い髪のおじさまです。 「こちら一駅です。どうされました? 」 「おぉ嬢ちゃん。悪りぃが一本、そっちに伸ばしてもいいか? うちじゃもう、対応できなくてよぉ」 九駅は大きな転車台のある立派な駅。おじさまはお癒車(いしゃ)さんで、壊れた列車の修理が得意です。それでも対応できないということは…… 「廃車、ですか……? 」 「あぁ。あんたのとこに任せる。眠らせてやってくれや」 駅には其々役割があります。そして一駅の役割は、直せなくなった列車をうえの世界に帰すこと。終わった命を見送る「終点」。それが一駅です。
/131ページ

最初のコメントを投稿しよう!