【1】送る

2/10
24人が本棚に入れています
本棚に追加
/131ページ
 太陽の頭が見えて来たら、今日の夜も終わりです。  遠くから鳥の声が聞こえて来ました。風がごうっと吹いて、草原がざわざわ声をあげます。  私は布団から出ると、空に向かって大きく伸びをします。今日の私の目覚めは良好。爽やかな一日になりそうです。  それから階段を降りて、構内の明かりを一つひとつ点けて行きます。これが今日の駅の目覚め。こちらも良好。異常なしです。 「十二駅から一駅へ。定期連絡です」  駅員室の電話が言いました。今日のお仕事の連絡です。お相手は十二駅の駅員さん。私たちのお仕事を管理しています。   「一駅から十二駅へ。おはようございます」 「おはよう。よく眠れた? 」 「はいっ。星がすごく綺麗でした! 」   「そう。1ー25は空気が綺麗だからね」  十二駅さんは優しいヒトです。定期連絡を忘れたときは別ですが。 「それでは今日の仕事。あなたは久しぶりの『移動』ね」 「移動ですか⁉︎ やったぁ‼︎ 」  お仕事で一番楽しいのは「移動」です。駅を動かして、ほかの場所に置くのです。 「1−25から1ー30へ。道中の天気は晴れのち雨。障害は特になさそうだけど、十分気をつけて。落し物の回収も忘れないように。いいね」  雨が降ると、駅の中に水が入って来てしまいます。濡れるのは嫌ですが、これは大事なお仕事。私も大人ですから、これくらいでごねたりしません。  十二駅さんは「頑張って」とだけ言って、電話を切りました。さて、出発の準備を始めましょう。
/131ページ

最初のコメントを投稿しよう!