一線

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  「ねぇ、見せてごらんって」  その手が、私の右肩に触れそうになる。私は思わず体を硬直させた。  その瞬間。 「!」  目の前の四角いテーブルが、突然真っ二つにひび割れた。  ……いや、違う。割れたわけじゃない。ふたつに分断されたのだ。  真っ白いラインが、私と沙也加の間を遮るように走っていた。それはテーブルの下、木目調の床をも這うようにして、ずっと先まで伸びていく。  〝線〟だ。 「来ないで!」  咄嗟に叫ぶと、私は立ち上がった。  突然の大声に、店中の客がこちらを向いた。はっとして、私も彼らを見返す。ぐるりと店内を見渡し、最後に店員さんと目が合ったところで、私はおずおずと席についた。  沙也加は中腰のまま、悲しそうな目でこちらを見つめている。  その表情に、罪悪感を覚えた。 「ご、ごめん。……なんか、びっくりしちゃって」  線の向こう、沙也加がいる側のテーブルの上。白いペンキで書かれたような、大きな文字が私に向かって主張していた。 〝裏切り者〟 「……沙也加、本当になんでもないから。最近、祐也優しいんだよ。前みたいにすぐ殴ったりしないもの。何かあったらちゃんと沙也加に相談するから、心配しないで」  ……沙也加の差し伸べてくる手を取ったら、私は裏切り者になってしまう。  祐也を警察に売る、裏切り者に。祐也より沙也加を取った、裏切り者に。私は裏切り者になりたいわけじゃない。ただ、祐也の望むお姫様になりたいだけ。  それだけ、なのに。  沙也加はずっと俯いている。かける言葉も見つからず黙り込んでいると、ふと、ポケットの中のスマートフォンが震えた。  メールだ。 『今、どこ』  ——あぁ。  今日は平日なのに、また思い立って半休を取ったのだろうか。  祐也は時々、抜き打ちの持ち物検査みたいなことをする。私の所在を確認したいのだ。早く帰らないと、どうなってしまうかわからない。すぐにメールに返信して、ここを出ないと。  ごめん、沙也加。  私は固く目を瞑り、泣きそうな気持ちを堪えていた。  
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