一線

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  「……また、来てね」  ぼんやりと、その後ろ姿を見つめる。  彼らはどこへ行くのだろう。  あの小さな羽で、小さな体で。この広い世界を飛び回るには、あまりにも貧弱に見えた。じっと、ひとつの場所にいた方が楽なのに。なんなら、ずっと私の家にいればいいのに。  大変そうなスズメたちの行く末に想いを馳せていると、急にお腹が空いてきた。私も何か食べようと、部屋に戻る。そして台所へ向かおうとしたところで、あることに気づいた。  玄関の手前、ドアと私の間を隔てるように、白い線が浮かび上がっていた。 〝脱走犯〟  私は、その向こうに表示されている言葉に気づかない振りをした。  近頃、部屋の中でよく見る単語だった。どうしてあんなものが見えるのだろう。別に、誰も外へ出たいなんて言っていないのに。なんだかあの線を見るたびに、不快な気持ちになる。  違う、違う。  私はここから出たくなんかない。私は幸せなんだから。外へ出たいなんて、思ったことはない。  ……なんだろう。なんだか、頭が痛くなってきた。  もういい。どうでもいい。寝てしまおう。  なんだかとても、イライラする……。  踵を返し、今度はソファーの方へと進む。その時、視界の隅に妙なものが見えた気がした。 「……あれ」  足を止める。見つけたそれは、新たな〝線〟だった。  その線は、玄関ではなく部屋をまっすぐに横断していた。こんな場所に線が現れるのははじめてだった。そしてもうひとつ、いつもとは違う点がある。  線の向こうにある文字が、見えない。何かが書いてあるのはたしかだけれど、ぼんやりとして読み取れない。今まで、こんなことはなかったのに。  ……一体、何が書いてあるのだろう。  何故か気になるその文字を、私はいつまでも見つめ続けていた。  
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