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この生活が始まって、気づけば半年が過ぎようとしていた。
何のイベントも起こらないはずの私の生活は、少しずつ変化していた。
まず、祐也の帰りが遅くなった。以前は残業もなく帰ってきていたのに、今は定時の時間にも帰ってこない。その理由について、祐也から説明されることはなかった。
そして、もうひとつ。私がこもるマンションの部屋に、徐々に〝線〟が現れることが増えていった。
台所の近く。玄関の近く。あらゆる場所に線が現れては消えていく。まるで私を挑発するかのように。
どうしてだろう。
どうしてだろう。
私は日中、部屋の真ん中で体育座りをし、考え込むようになった。どうしてこうなってしまったのか。何か、私がよくないことをしてしまったのだろうか。でも、考えても答えは出てこない。
私はただ、祐也のお姫様になりたかっただけなのに。
こうしてちゃんと、うちの中で〝お姫様〟をしているのに。どうして世界は変わってしまったのだろう。
ねぇ、祐也。早く帰ってきてよ。
お願いだから。早く帰ってきて、前みたいに私を抱きしめて。殴ってもいいから。蹴ってもいいから。私に触れて。
そうじゃないと、私……。
その時、ガチャリ、と音がし、玄関のドアが開いた。
祐也だ。私は立ち上がり、彼を出迎えた。
「おかえりなさい」
今もてる、一番の笑顔で挨拶をする。だけれど祐也からはなんの反応もなかった。まるで私など目に入っていないかのように、すたすたと自室に入り戸を閉める。聞き耳をたててみると、何やら部屋で作業をしているようだった。
祐也が帰ってきたのは三日ぶりだった。近頃は着替えもどこかに持っていっているようで、今も三日前とは違う服を着ていた。また今日も、部屋から必要な何かを持っていくのだろう。今、このマンションは祐也にとって、荷物置き場のような扱いになっている。
祐也が部屋から出てきた。言いたい言葉をすべて飲み込んだ私に、祐也はそっけなく言い捨てる。
「今夜は、友達の家に泊まるから」
バタン、と戸が閉まると、私はまた一人の世界に取り残された。
そのまま、しばらくじっと部屋の真ん中に立っていた。
静かにしていると、時計の針がカチ、カチと音をたてていることに気づく。知らなかった。この部屋の時計って、音がするタイプなんだ。私はどっちかというと、静音の方が好みなんだけどな。
……私、なんでここにいるんだっけ。
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