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あたしは行き同様、帰りも走りに走った。冷笑する奴らを睥睨し、または思い出して、ざまあ見ろと思いながら元の場所に戻って来た。
例の女性は涼しい顔をして待っていてくれた。矢張りあたしのみすぼらしい恰好を見ても冷笑を浮かべない。これだけでも只物ではないと感じたあたしは、何分かかりまいた?と息を切らしながら訊いてみた。
「48分よ」と彼女は麗美な笑顔で答えた。
「そうすると、あと10分くらいで爆発しますね」
「そうよ。よくやったわね」
「はい、基次郎の為にも頑張りました」
「そう」
「ところで、あなたは?」
「ああ、私、私はあなたの思う通りメドゥーサよ」と彼女が意味ありげににやりとしてあたしを見つめた途端、あたしは身動きが取れなくなってしまった。「しまった、石になってしまった」と思った所で目が覚めた。
あたしは居眠りしていたのだった。ところが、目の前には実際にレモンが落ちている。と言うことはあたしはレモンが瞼に映った瞬間、眠りに就いて其の儘、ずっと夢を見ていたってわけかしら?これってどういうこと?訳わかんないけど、すごくない?
あたしはレモンを手に取る。夢の中のレモン同様、痛んだところはなく掌にすっぽり収まる。肺尖を悪くして熱が出て掌が熱くなった基次郎が感じたであろう心地よい冷たさを感じる。あたしの掌は今まで走って来たかのように火照っているのだから。
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