プライア

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「理屈だな。俺は 馴染(なじ)みの子と、ゆっくり 楽しみたい派だけどな」 「だって、その馴染みとも 初回はあったわけで…」 「あの当時、やたら絡(から)んで 来たから、おかしいとは 思ったんだ…」 「健、それ、俺のこと?」 健は何も言わず、二三度頷いた。 「クレバネットは簡単には 濡れないんだろうけど、 誰が相手だろうと、要は 気分が乗るか乗らないか …だろ?」 「十真、おまえにも渾名(あだな) &徒名(あだな)あったの 知ってるよね?」 「知らぬは本人ばかり、だな。 なんて?」 「スラッシュ」 「あーあ、ははあ。フォルダや ディレクトリーの区切り記号? 切りつける。とか? スペル違いで残り物とか、 廃物って意味もあるんだよね」 あの頃は、スラッシュがクレバネ ットを、真っ二つに切り裂いた。 ドーベルマン ピンシェル(猟犬)が 狼を誘い出して噛みつき… いや、 咥(くわ)えた。 十真は健のベッドからすべり降 りて、健と向き合い、猟犬のよう に座って、健の唇に穏やかなキス をした。 健はタメ息をつきながらも微笑み、 大きな掌で十真の頬に触れた。冷 えたバドワイザーを握っていたせ いで、彼の手はひんやりしていた。 十真は健の手首(リスト)を握って、 健の掌に唇を寄せ、上目遣(づか) いに年上の情人を見上げた。 健は愛人の瞳を見た。
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