プライア

16/78
前へ
/78ページ
次へ
10代の後半は、こうしたことで 頭が一杯だった。 20歳(はたち)を過ぎたら途端に テンションが落ちた。 たぶん、他に振り向けるべきエネ ルギーが必要になったからだ。 仕事(ワーク)が…ある。 洗面所で手を洗っていると、洗面 台の鏡に映った十真が、黒髪をか きあげながら、子どものような問 いを突きつけて来た。 「健、腹減った。何かない?」 「何なら食えるんだ?」 「とりあえず肉系以外。 …パスタ食べたい。 コルツェッティ、フジッリ、 レジネッラ…」 「だから夕方に食っちまえば よかったんだよ。今から 鬼(きさらぎ)家御用達 (ごようたし)のイタ飯屋には 行けないよ。なんだ、その、 ハイソ感満載のパスタ名の 連呼は。ミドルロウアー階級 (クラス)の俺の部屋に来て アテつけがましいってんだ」 「他に行くアテがない。 来てみりゃ酒のアテもない…」 「フルッタートもアックアリーナ もドルチェもございません」 冷蔵庫と冷凍庫を覗いた健が言っ て、ウォレット(財布) をチェーン に継いだ。 十真がレザージャケットを放って よこし、健は袖に腕を通した。 「おまえにはオーガニック フードなんかがいいんだろう けど、この時間じゃ… 何がいいんだ?」 「フィレオフィッシュセット。 コーラで」 「結局マクドか…」 「帰りにスイーツ お願いできる?」 「言っとくが、ゴディバも ユーハイムも千疋屋 (せんびきや)もねえからな、 ここら辺は。コンビニの フルーツゼリーかなんかで我慢 してくれ。たしか、マンゴー だとタンパク質は少ない」 「トロピカルフルーツは、 俺、あまり好きじゃない」 「おまえさあ…」 「じゃあ、柑橘(かんきつ)系なら 文句言わないから…」 「詰まるところプロトタイプ (基本系)か」
/78ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加