プライア

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バリオスのモーター音が遠ざかる と、十真は健のベッドに戻り、健 が調達してくれた雑誌をめくり、 読者の投稿サイトコーナーに目を 通し、更にひとつのコーナーに目 を止めた。 それは、コーナーフラグ(サッカー フィールドの四隅にあるポストに つけられた旗)のように十真の目を 引いた。 「ライダー? へえ、十代で 400クラス転がしてんのか? アキラねえ。東京都、板橋。 身長と体重は納得。 フォトモデル経験あり…か。 こいつ、自慢気、自信満々。 なに気(げ)に…」 なにか、こう…強く抱きしめたり、 抱きしめられたりしたい。 気に入った子と、一晩中、飽きる ほどしてみたい… 健が駅前ハンバーガーショップの 駐車場にバリオスを停めると、店 内から腹ごしらえを済ませたらし い一団が騒ぎ合いながら出てきた。 「っしゃ! 風流すっか!」 「月、観ようぜ。海の上の月」 「海、海、オーシャン パシフィック(太平洋)!」 「365号だよな? 一馬(かずま)」 「先に北上して、河渡って 他県からも行ける。そっちの 方が早いと思うけど」 「南方(みなかた)ぁ、 料金所あるよ、そっちは」 「だっけ?」 (カズマ …ミナカタ…南方一馬…) 十真が、フォロワー(とりまき)の 少年たちを組織してるのは聞いた。 族(ぞく)というよりはツーリング サークルのような… 駐車場には250ccから400cc クラスの R・R (レーサー レプリ カ) が並んでいて、南方一馬と呼 ばれた少年は、軽快そうな黄緑色 (チシャグリーン)のバイクマシン をまたいだ。 (チシャの花言葉は〈冷淡〉) テールの跳ね上がったマシンは、 精霊飛蝗(しょうりょうばった)を 思わせた。 「おお、一馬、あすこ、見ろよ。 バリオスだぜ」 「カッケー」 「あの色、スゲ! 外国の海の色みたいだ」 「アドリアン・ブルー (地中海の青)」 少年は言って、ヘルメットを着け る前に、チラ、と健を見た。 (この子だ! 野生馬!)
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