プライア

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健は、この少年が十真の恋人だと 直感した。 上背こそ、それ程はなかったが、 しなやかでバネの利きそうな躯つ きをしている。 彫りの深いエキゾチックな面立ち は、ハーフかクォーターかもしれ ない。 切れ込んだ二重の奥の瞳には、確 かに野生馬のような活力が宿り、 16歳の額には少年らしい初々し さがあった。 少年は健に、十代の頃の怖いもの のなかった自分を想起させた。 (二年前の、あの事故さえ なければ…) 国道で族に取り囲まれた。 アドリアンブルーのバリオスが目 立ち過ぎた。 満月の夜で、彼はあまりに美しか った。 男たちが月に憑かれて、そのうち に始まった。 「よう、兄ちゃん、 彼女に会いに行くの? それとも彼氏?」 うんざりだった。 「また、オサレなのに 股がってんな」 袖を切り落とした革のベスト。 腕のタトゥー。 ヒトラーユーゲントを髣髴とさせ るメット。 迷彩服。 「生意気な野郎だ。挨拶なしか」 男たちの目には狂気に近いものが 燃えていた。 誇張された男性性。 社会生活において、充分なリスペ クトを得られない者が他者の自尊 心を傷つけることでバランスをと ろうとする。 バリオスの前足が宙を掻いた。 健はUターンし、真夜中の国道を フルスロットルで逆走した。 バリオスに翼が生え、荒れ馬はペ ガサスに変容し、タンクの油が激 しくスロッシング(液面動揺)した。
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