プライア

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「魂棚さん、親父には、 せいぜい自重しますと 伝えてください」 家裁裏手の駐車場には、ドッグウ ッド(花水木) の木影があって、初 夏の午後の光が満ち溢れている。 「十真さん、とにかく…」 弁護士は、黒塗りベンツの後部座 席の扉を開け、青年を促(うなが) したが、白い半袖Tシャツとジー ンズにアンクレット(足首までの 靴)の彼は取り合わなかった。 十真は魂棚に背を向けて、ベンツ の真向かいに停めてある、アドリ アンブルーの車体のバイクマシン の方に歩って行く。 バイクマシンにまたがった、黒の フレンチスリーブとライダージー ンズにライディングシューズの、 金髪の青年が、右腕を高く天に突 き上げ、十真に合図を送ってよこ した。 「十真(とうま)!」 「健(たける)っ!」 健と呼ばれた青年は、手にしてい た黒のレザージャケットを放り投 げた。 十真は空中のジャケットを取り受 け、歩きながら腕を通した。 それは魂棚に、金のたてがみ狼に 走り寄るドーベルマン。といった 印象を抱かせた。 「十真、メット、後ろの ボックス。 今、ノーヘル、 やかましいから…」 「いい。早く、ここから…」 「だな」 健のバリオス(荒れ馬)の後部シー トをまたぎ、十真は青年の腰に腕 を回して、胸を背に着けた。 アクセルペダルが強く踏み込まれ、 吹け上がりのいい健のマシンが嘶 (いなな)き 、駐車場に砂煙をあげ て、無番地の建物を後ろに、バリ オスは市街へと加速し、疾走した。
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