プライア

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春だった。 俺は、家の庭で恋人を見つけた。 あの頃の健は、まだ黒髪だった。 ゴールデンウィークに、庭師(ガー デナー)の孫は祖父(じい)さんにく っついてやって来て、白いタオル を頭に巻いて庭に穴を掘って何か を植え込んでた。 一所懸命に… 「初恋」っていうものなのかもし れなかった。 十三の俺は、キッチンから冷えた ジンジャーエールを持っていって 健の目の前でワザとこぼしてみた り、いかにも不用心に指を草の葉 で切ってみて、健に血を舐(な)め とってもらったりして親しくなっ た。 「十真、ここ、 フォーカルポイント っていうんだ」 「なんて意味? 健」 「庭の中の『見せ場』ってか、 そんなかな」 リズム あしらい らしさ メリハリ コツ 風情(ふぜい) 「それからさ、十真、園芸家 (ガーデナー)の話に 『ツルの恩返し』って出て 来たら『鶴』じゃなくて 『蔓(つる)』だったりするかも …だよ」 「バイン(蔓)? それって、 何かおもしろいの?」 「え…じゃ、あの…あのさ 『障(さわ)り』って知ってる?」 「善(よ)くないこと」 「隠(かく)すって意味なんだ」 「ああ、ステルス」 「けどね、部分を隠すの。 わざと。隠されるとさ、 見る人は心の中で想像 するだろ? それで、広がりを 持たせて庭を完成させる」 「未完じゃん」 「十真、おまえ、また、 サックリと…」
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