プライア

「レインコート？
あっ、ははあ…」

健が笑いながらのけぞった。

「たぶん、考えてる通りだ」

「濡れない？」

「ビンゴ！ 君は相手を
濡らすだけ。だってさ」

「エッロエロだな。けど何も
わかっちゃねえ。世間はよ。
俺はいつも濡れ濡れだよ。
なあ、十真」

「はい？」

「ただ…なんていうのかな、
染み込まないだけだ」
(自分にも、相手にも…)

「ふふん、すぐ乾く？」

「相手とパーマネント(恒久的)な
関係にはいかないな」

「達(い)かない？」

「濡れないだの、達かないだの。
昼間っから。あー、俺、昼
食(く)ってねんだ。
おまえもだろ？ さすがの親父
(おや)っさんも家裁まで
おまえにランチを届けるとは
思えないしな。河向こうに
長寿庵て、うまい手打ち蕎麦屋
があんだ。それから、書店に
行こう」

「書店？」

「情報を買う。折り合いを
つけられそうなのが、あるかも」