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ー1 love is blind.ー
「ごめん、数士。先約があって」
奇妙な既視感。
フラれた事よりも既視感に激しく動揺した。
桜英子。
さくら高校では屈指の美少女。成績優秀。清廉潔白。明朗快活な彼女は男子からも女子からも基本的に人気者だった。
――ごめん数士――
先約があるとはいえ、滅多に誘いを断らない桜に断られてしまった。ほかのどいつもある程度はあるのだろう、下心、を見破られたのだろうか。噂によると桜は身持ちが固い。警戒されたのかもしれない。念のため確認してみる。
「先約って女子?もう一枚用意するけど」
桜は困ったように、
「、、、男性。」
頬を赤らめるのではないかと思い、思わず俯いてしまった。
「いや、男でもよければ一緒に」
もう一度正面から桜を見た。見つめるほど親しくはないし、目をそらすほど弱くもない。
桜は営業スマイルとわかる笑顔でぎこちなく微笑んでいた。
「デートだから」
チケットを破り捨てよう。そして忘れよう。ウィスキーチョコでも食べて少し上げよう。そんな考えが浮かんできた。昼休みの会戦であえなく敗退して、そのまま早退してうちに帰った。ウィスキーチョコは買ってこなかったが、ウィスキーとチョコレートはある。後で叱られる可能性があったが理解してくれるものと楽観を決め込んだ。
チケットを眺める。
いまどき古風な映画のチケット。値段が高いのが高級志向でデート感があり、場所を選べばデートスポットに絶好で、その日一日デートの会話に困らない。後は選球眼だ。
狙いは悪くなかった、はずだ。
デートチケット。
勿体ないが破って捨てるか、一枚。
、、、もったいない。
酒で酩酊した頭で考える。
脱出経路。
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