一、人間嫌い

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「またそなたが願いを叶えた人間がいらぬことをしたか、蛇珀(じゃはく)よ」 「そうだ。せっかく俺が政治家になるって夢を叶えてやったのに、罪を犯して刑務所行きだ。この間の奴も、その前の奴だって、ろくなことをしやがらねえ」  この神々たちは、人の寿命をもらうことで生きながらえている。それと引き換えに一つだけ願いを叶えてやるわけだが、もちろん叶えた後のことまで面倒を見るわけではない。  その後は各自の生き方によるわけだが、願いを叶えた後、堕落する人間があまりに多いことに蛇珀はうんざりしていたのだ。 「まあそう言うな。そなたはまだ若いから人間というものをよくわかっていないのだ。無論、大半が欲望に負け闇に堕ちるのは間違いではない。が、皆がそうだというわけではない」 「……そりゃあ千年以上生きてる狐神(きつねがみ)狐雲(こううん)様にとっちゃ俺はお子様かもしれねえけどな。これでももう三百歳だ。人間がどの程度の生き物かくらい、俺にだって判断できるぜ」  蛇珀が嫌みたらしく言うと、狐雲は少し困ったように微笑んだ。その背後には千年という時を越えてきた証とも言える豊かな尻尾が十は生えて見えた。  蛇珀はこの神が嫌いだった。なんせ大昔、人間の女と恋に落ちたことがあるとかないとか噂がある。事実かどうかは定かではないが、蛇珀は興味がないため本人に確認したこともない。  それでも狐雲と会うのは、人間界に降りる際、上流神の許可がいるからである。
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